18回めの観劇 三吉演芸場 橘菊太郎劇団 『湯島の白梅』
初めての橘菊太郎劇団ですが、橘大五郎座長と橘良二副座長と橘菊太郎総座長は森川劇団のゲストでいらしたときに拝見しているので、2度目です。
お芝居は『湯島の白梅』でした。前に劇団美松で観た『日本橋』もそうでしたが、泉鏡花が原作です。なかなかこういうお芝居って見る機会がないから嬉しいです。『湯島の白梅』も有名なお話なのに初めて観ました。
とはいえ、なぜか科白だけは知ってるんですよね。「月は晴れても心は闇だ」とか、「別れろ切れろは芸者のときに言う言葉、今の私には死ねと言ってください」とか。子どもの頃から何度も耳にしたような。それだけ知られたお芝居ということですよね。
お話は、料亭で、幼なじみの男女が再会するところから話が始まります。
酒井先生という立派な先生の元で火薬の研究をしている早瀬主税(はやせ ちから)と、人気芸者のお蔦(つた)。
二人は親のない子どもの集まる孤児仲間だったのですが、早瀬主税はハヤブサのリキと呼ばれるスリになったものの、酒井先生に捕まったことをきっかけに、学者の道を歩ませてもらうことに。そのとき、名前も早瀬主税になりました。
お蔦は人気芸者となりながらも、幼い頃にリキ(早瀬主税)が、大人になったらお嫁さんにしてやると約束してくれたことをずっと忘れられずにいました。
だから、再会してすぐに、「約束おぼえてる? お嫁さんにしてくれる?」と早瀬に訊いてしまいます。早瀬も「おぼえてるよ」とこたえ、二人は魚の行商をする夫婦の家の二階で同棲することに。
だけど、火薬の研究で博士になろうとしている早瀬と違って、お蔦は字を読むことも書くこともできず、火薬と花火の違いもわかりません。
そのため、早瀬の大事な研究資料を風呂の焚きつけにして燃やすことになってしまい、せめて試しに作った火薬だけでも残っていたらと早瀬が嘆くと、「火薬ならあるわ」と線香花火を持ってきてしまいます。
そして、ある出来事をきっかけに早瀬は、酒井先生から、自分のもとから去るか、お蔦と別れるか、どちらか選べと迫られます。
そのあと二人で湯島天神に行くんですけど、ほとんどのお客さんが泣いてましたね。私もうるっとしてしまいました。
今の時代にはそぐわないけど、充分にわかるお話でした。もう違う世界で生きるようになったんだと、再会したときに早瀬が言えばよかったのかもしれないけど、早瀬自身もまだ自分が生まれ育った前の世界と今で気持ちが揺れ動いてしまっていたし、男女というのはそう簡単に割り切れるものではないですし。純粋に早瀬を思うお蔦の一途さがひたすら可愛く、切なかったです。
早瀬役の橘良二副座長もすごく良かったです。しっかり間をとってしゃべるから、早瀬の苦悩とか、やさしさとかがすごく伝わってきて、感情移入しやすかった。ここで焦って喋っちゃう人がやっていたら、ひたすらお蔦がかわいそうなだけになってしまうけど、早瀬の気持ちも同じぐらい伝わってきて、よけいに切なく感じました。
じつはゲストで見たときには橘良二副座長のことをあんまり動かない人だなあと思ってしまったんですが、もともとゆっくりした人なのかな。それがお芝居ではすごくよかったし、舞踊のときもほかの若い子たちが激しく動いて、そのあとかっこよく出てくるみたいな構成になっていて、劇団公演で見たらちゃんと見栄えが良かったです。って失礼かw
それにやっぱり人数が揃っていて、みんな演技が上手いから見応えがありましたね。女優さんたちもちゃんと役に合ってて。魚の行商の夫婦だけ旦那さんがやけに若かったけど、これはあえてでしょうね。酒井先生を橘菊太郎総座長、魚屋の旦那を橘小次郎座頭がやれば完璧だったかもしれないけど、さすがにそこまでやらなくても、若い座員さんたちに頑張ってもらわないと。
あと、お芝居では酒井先生の娘役だった、北條みきさんが異彩を放っていました!
舞踊ショーでは女性三人の群舞の最中、スマホで歌詞を見ながら歌い出すというパフォーマンス。それがまた微妙に調子はずれでいい感じに笑わせてくれました。こういうサービス精神溢れる方は各劇団に一人ずつはほしいですよね。
そして、橘大五郎座長はやっぱり、ミスターパーフェクトですねえ。
ゲストで見たときの森の石松のキレキレの演技、あれも素晴らしかったし、今回のお蔦では本当に可愛らしかったし、きれいだったし。女形で踊れば日本舞踊の基礎があるきれいな舞で、立役での激しいダンスも完璧だし。なんでも出来ちゃう。しかも愛嬌があって、三吉のお客さんにも大人気だし。
ラストショーも凄かったです。
こんな感じの美しいスタートから ⇒
幻想的な舞になって ⇒
入れ替わっての勇ましい舞になったと思ったら ⇒
早変わりで座長がふたたび登場して ⇒
どーん! みたいなw 躍動感があって鮮やかな展開でした!!